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公立図書館の現状と諸問題 Ⅲ

-分館と学校図書館の地域開放(2)-

 

四国大学地方自治研究フォーラム

岡南 均

​平成30年7月2日

はじめに

 今回は前回発表(5月29日)の─分館と学校図書館の地域開放(1)―の続きとなる。内容は学校図書館の地域開放に関してだ。  前回発表の後、6月11日に、徳島市議会6月定例会において、「読書環境の拡大と整備について─徳島市立図書館の分館と学校図書館の開放─」という要旨で本会議質問をした。5月29日に当フォーラムで発表したレポートが質問の中核であり、その質問内容、それに対する理事者の答弁が本レポートの中核となる。効率のよい発表と議会での質問といえるかもしれない。

1.分館について前回レポートの補足(分館の必要性の再認識)

 

 前回レポートの中で日野市立図書館の初代館長前川恒雄氏を紹介したが、その後、前川氏に端を発した資料を徳島県立図書館で手に入れることができた。

・棚橋満雄著「徳島県の図書館」1991(平成3)年(棚橋氏は当時藍住町立図書館長である)

すべての県民への充実した図書館サービスの目標は、これまでものべたように1985年1月、徳島県立図書館基本構想検討委員会(委員長、当時鳴門教育大学図書館長であった松本淳治氏)が三木申三知事に提出した「徳島県立図書館基本構想報告書」に提起されたものである。報告書は、この目標を実現するためには、「県民だれもが身近に利用できる市町村立図書館が整備充実される」ことが必要であり、県立図書館が「県内市町村立図書館との連携を深め、県下全域を図書館サービス網でカバーする」こと、このため、「県内市町村立図書館に対しての援助・協力、図書館未設置市町村への働きかけを積極的に展開」することを求めている。    この目標の実現は報告書がのべているように、すべての市町村への図書館の設置、分館網と移動図書館による全域サービスがすべての県域をカバーするにいたった時、はじめてそのための条件をつくり出すことができる、といってよいであろう。

・平成元年度徳島県図書館ネットワーク研究会報告書(平成元年11月に開館した徳島県立図書館が市町村立図書館とのネットワークに備えてのシステム構築等の準備を進めている中で発足した徳島県図書館ネットワーク研究会が平成2年3月に出した報告書)

県内公共図書館等の現状と問題点

(2)問題点   ①全域サービス

 どの市町村立図書館をとってみても、分館はない。移動図書館は6台だけである。

 市立図書館にとっては分館をつくっていくことは特に重要である。分館問題を解決せずに市立図書館の前進はない。分館問題、つまり自分の図書館のシステムをつくることがネットワーク問題にとってある意味でもっとも必要なことではなかろうか。

2. 学校図書館法第4条の2

 

  改めて学校図書館の地域解放に関して話を進めるが、まず昭和28年に制定された学校図書館法を見ることにしよう。 (この法律の目的) 第1条 この法律は、学校図書館が、学校教育において欠くことのできない基礎的な設備であることをかんがみ、その健全な発達を図り、もって学校教育を充実することを目的とする。 第4条の2 学校図書館は、その目的を達成するのに支障のない限度において、一般公衆に利用させることができる。

3.6月定例会質問(学校図書館開放に関する部分)とその部分の答弁

<質 問>

 「学校図書館の基礎と実際」という書籍の中に、学校図書館を地域に開放している事例があると知り、調べてみると、札幌市を初め、仙台市、横須賀市、練馬区、三鷹市、川崎市等にその事例を見ることができました。

 それと、少し資料としては古くなりますが、平成21年3月に、「子どもの読書サポーターズ会議」が出された「これからの学校図書館のあり方等について(報告)」の中に次のような文章がありました。

 学校図書館の位置づけと機能・役割として、学校図書館を学校の児童、生徒や教員だけでなく、地域住民全体のための文化施設として有効に活用できるようにすべきとする要請も多くなっている。このような要請のもと、例えば、学校図書館を地域住民全体の文化施設と位置付け、放課後や週末に、他校の児童・生徒や地域の大人にも開放する取組などを通じ、地域における読書活動の核として、学校図書館の施設やその機能の活用を図っている例もある。続いて、学校図書館の活用高度化に向けた視点と推進方策、考えられる取り組みの例として「地域開放型」学校図書館の運営に関するノウハウの蓄積と普及を図る公共図書館とのネットワーク化を図り、一体的なサービスの提供を促進する。学校図書館が窓口となって、地域の団体との連携を推進する等です。

 次に、学校図書館開放について、中学校図書館に関して質問します。市内15中学校の図書館における総蔵書数、及び書籍購入費をお答えください。15中学校のうち蔵書数上位3校名とその蔵書数、及びその3校の書籍購入費と購入冊数をお答えください。

 次に、中学校の図書館を地域開放した場合のメリット、デメリットをお答えください。

<答 弁>

 徳島市立の15の中学校の図書館における蔵書数、図書購入費等についてでございますが、平成29年4月1日現在における15の中学校の総蔵書数につきましては29万2160冊、平成29年度の図書購入費は1300万8000円でございます。

 そのうち、蔵書数が一番多いのが富田中学校で3万7730冊、2番目が城西中学校で3万2531冊、3番目が国府中学校で3万2395冊となっております。

 また、上位3校の状況についてでございますが、富田中学校の図書購入費が87万6000円、購入冊数が628冊、城西中学校がそれぞれ、116万3000円、726冊、国府中学校については、104万4000円と808冊となっております。

 次に、中学校の図書館を地域開放した場合のメリット、デメリットについてでございますが、主なメリットといたしましては、地域住民と生徒との交流が深まり、地域の社会教育活動や文化活動が推進されるものと考えております。

 デメリットにつきましては、まず、学校行事や授業に支障が及ぶことがないよう配慮が必要なことでございます。そして、蔵書の貸し出しについてシステムの構築が必要であったり、地域開放の内容により異なるとは思われますが、運営主体や利用対象者、また、運営時間や運営方法の相違等により、その調整など管理運営面に多くの課題があると考えております。

 また、施設面の課題といたしましては、地域住民が活用しやすい部屋へ学校図書館を移設する必要や、学校の管理運営や安全を確保するため、他の学校施設と区別する施設改修などが必要になるものと想定され、これらの対応に多額の経費が必要になるものと考えております。

 

 今回、6月定例会で質問するに当たり、本会議以前に担当課の課長との意見交換で挙がった、学校図書館を地域開放した場合の具体的なデメリットは以下のとおりである。

① 図書館及び蔵書の管理はどうするのか

② 運営主体はどうするのか

③ 事故等発生時の責任の所在

④ 図書の入れ替え(購入)はどうするのか、大人向けの蔵書は少ない

⑤ 図書館は読書活動以外にも授業、生徒指導及び教育相談に利用されているため、それらの妨げになることも考えられる

⑥ 不特定多数の人が来校することになり、防犯上の問題が出てくる

⑦ 地域の利用者に蔵書が借りられている場合、学習の進行に影響を与えられることも出てくる

⑧ 図書館の蔵書を活用し、読書活動の活性化を推進しており、その妨げにならないよう慎重な議論が必要

⑨ 図書館以外の施設・教室への立ち入り防止策が必要

⑩ 利用者と生徒がトラブルになった場合を含め、現場教員の負担増となる

⑪ 駐車場、駐輪場の確保が必要となる

4. 中学校の余裕教室を分館としては

 

 行政のみならず、多くの市民へ分館の必要性を説明すると、恐らく「あったほうがよい」との答えが返ってくるであろう。では、具体的に新たに土地を購入し、そこへ分館を建設するとなると、今の財政状態では簡単なものではない。他方、学校図書館を地域開放するとなると、前述のとおり、多くのデメリットがある。それでは、少しでもベターな対応はないのかと考えた場合、学校図書館の地域開放ではなく、学校の余裕教室を分館にしてはどうかという見解が出てくる。是非を論じる前に、果たして学校に余裕教室がどの程度あるのか、それを調べた資料を添付した。

 市内15全中学校の教室配置図である。予想どおり少子化により余裕教室が多くある。その教室をうまく利用して分館にすることにより、前述のデメリット①~④については、少なくともデメリットであるといいきることはできない。なぜならば、分館というのは中央図書館の分館であるので、徳島市の場合は、徳島市立図書館が仮定として本館となる。つまり、徳島市立図書館の指定管理者であるTRC(株式会社図書館流通センター)が分館の維持管理運営を行うことになるからだ。もちろん①~⑪以外にも問題点はあるであろう。短所ばかりに目を移すのではなく多くの長所も考えられるその一番が、地域におけるソーシャルキャピタルの醸成であろう。

5. おわりに

 

 徳島市においては、おおむね小学校区に1カ所、コミュニティセンターが設置されており、地域の地縁組織の方の社会関係資本(ソーシャルキャピタル)が形成されている。しかし、その関係も月日の流れにより希薄化、高齢化等が進んできている。新しい住民を積極的に地縁組織に加入させるべく、諸団体の方は努力をされているとは思うが、組織が活性化したという話はあまり聞こえてこない。

 図書館の分館が地域に設置されることで、新しく読書を媒介とした組織、サークルができるかもしれない。既存の組織と新しい組織を融合させることは簡単ではないとしても、新しい組織、グループが地域のにぎやかさを取り戻す一助になることも十分考えられるのではないだろうか。そういう意味において、中学校の余裕教室を分館にしてはどうかという提案は、教育委員会で調査・研究されてしかるべきものと思う。

公立図書館の現状と諸問題 Ⅲ

-分館と学校図書館の地域開放(1)-

 

四国大学地方自治研究フォーラム

岡南 均

​平成30年5月29日

はじめに

  今回のレポートの主旨は、徳島市の図書館行政について、市民の読書空間の拡大、読書環境のより一層の整備を考えるのであれば、他都市との比較において、複数の地域図書館(分館)の設置や学校図書館の地域開放が必要ではないかというものである。 そのことを含めて、各自治体が設置している図書館の分館及び学校図書館の地域開放についての調査結果を報告する。  そもそも公立図書館の視察を始めるに至った理由は、公立図書館と小・中学校の図書館との連携、公立図書館と地域とのつながり等を地域自治協議会の立ち位置から考えてみようと思ったことにある。 地域自治協議会とは、行政が小学校区に一つ設置しようとしている地域自治組織であり、私の大きな研究テーマである。少し補足すると、地域自治協議会の目的の一つに地域の社会問題の解決がある。その観点から、地域における学校教育の補完として、地域自治協議会に何ができるのか、そして、その点を少し深ぼりし、小・中学校の図書館が有効に活用できているのかと考えるうちに、小・中学校の図書館と公立図書館が、現在、どういう関係にあるのかを調べてみようという考えに至り、公立図書館の視察が始まった。  当初、各自治体に分館があるという認識はなかった。分館を訪問しているにもかかわらず、である。2017(平成29)年7月5日に訪問した鈴鹿市立図書館で、添付の資料(平成27年度末三重県内市立図書館〔14市〕の状況)を見せられた時、ほとんどの自治体に分館があるという認識に至ったわけである。分館は、各自治体の中央図書館からすれば、もちろん蔵書数、職員数、その他多くの点で見劣りはするが、地域密着度の点において、中央館にはできないことがたくさんある。

次に、学校図書館の地域開放については、徳島市立図書館で偶然見つけた「学校図書館の基礎と実際」(後藤敏行著)の中で、学校図書館を地域に開放している事例があると知り、早速調べてみると、札幌市を初め、仙台市、横須賀市、練馬区、三鷹市等にその事例を見ることができた。  そして、少し資料としては古くなるが、平成21年3月に、子どもの読書サポーターズ会議が出された「これからの学校図書館の活用の在り方等について(報告)」の中に、次のような文章がある。 ―学校図書館の位置づけと機能・役割として、学校図書館を学校の児童・生徒や教員だけでなく、地域住民全体のための文化施設として有効に活用できるようにすべきとする要請も多くなっている。  このような要請のもと、例えば、学校図書館を地域住民全体の文化施設と位置づけ、放課後や週末に、他校の児童・生徒や地域の大人にも開放する取り組みなどを通じ、地域における読書活動の核として、学校図書館の施設等やその機能の活用を図っている例もある。―

続いて、 ―学校図書館の活用高度化に向けた視点と推進方策、考えられる取り組みの例として、

・放課後開放された小学校の学校図書館で、地域の中学生や高校生が読み聞かせを行うなど、読書を通じた交流活動を展開する

・「地域開放型」学校図書館の運営に関するノウハウの蓄積と普及を図る ・ 公共図書館とのネットワーク化を図り、一体的なサービスの提供を促進する

・学校図書館が窓口となって、地域の団体等との連携を推進する。等― 最後の、地域の団体等との連携は、まさに地域自治協議会との連携そのものであろう。

1まちづくりの拠点として、参画と協働の地域図書館づくり

 

 「公立図書館の現状と諸問題Ⅱ」において、公立図書館と地域のつながりについて、視察事例を発表したが、3月31日以降に公立図書館と地域のつながりについて参考になるレポートが2本あったので、その一部を記載しておく。  その一つは、一般財団法人地域活性化センターが編集・発行している「地域づくり特集編(2018.4)」の中で、昭和女子大学名誉教授の大串夏身氏の報告「地域活性化に貢献する図書館へ-地域課題解決支援サービスに取り組む公共図書館-」の一節、 -これからの図書館は、まちづくりの拠点の一つとして、地域に溶け込み、地域の活性化に貢献するような図書館へと変わらなくてはならない。  図書館は、本を中心に各種資料、ネット上の情報源などを収集して、整理し、住民とそれらを結びつけ、住民の仕事、生活、まちづくりに役立ててもらう施設である。それだけでなく図書館に集う人々が、本、知識、情報を仲立ちとして交流し、語り合い、新しい「知」を地域にもたらす施設でもある。新しい「知」は、人々の活力の源となり、地域を変える力ともなるものだ。  図書館は、地域住民が主体的に活動できる場となるように図書館の空間を作り変えていかなくてはならないし、そこから地域のさまざまな団体、組織、施設等と連携して、地域住民の活力、地域を変える力を生み出すことができるよう、支援できるようになることが必要だ。-  もう一つは、2011年5月8日に発表された帝塚山大学大学院法政策研究科中川幾郎教授の「新しい図書館と地域づくり」の一節、 -図書館づくりは「まちづくり」そのものである。現代のまちづくりとは、もはや高度経済成長期のように、ハード整備から思考するものではない。人材育成・開発(ヒトづくり)、知識・技術、ルール整備(シクミづくり)と進み、さらに施設整備(モノづくり)へと発想するべきものであろう。図書館は、学ぼうとする市民のための共同研究所でもある。孤立した市民が自己発見し、事故実現の手がかりを得て他者とつながる場である。また、コミュニティを共に支えようとする市民同士が学びあい、「共同知」を身につけあう場でもある。  その意味で、活力ある図書館からこそ、たえず新たな「市民=citizen」層が生まれていくはずである。図書館は、そのような個人市民と、地域社会を支援・再生させる場とならねばならない。そのためには、地域社会に存在するさまざまな課題を発掘し、その解決に向けた事業企画と実行に立ち向かうべきである。いわば、大衆的な「要求課題=demand」に応えるだけではなく、地域社会、市民社会の潜在的な「必要課題=needs」を発見し、その課題解決に立ち向かうことが求められているのである。-  2つのレポートともに、公共図書館は地域まちづくりの中核的存在と位置づけている。さてその場合の地域であるが、二人の教授がその「地域」をどのように考えられているかは解説されていないが、恐らくその地域は小・中学校区もしくは行政区を想定されているのではないだろうか。なぜならば、中川教授は小学校区に一つ、地域自治組織の設置を考えている中心的立場の教授であり、大串教授のレポートの~地域のさまざまな団体、組織、施設等と連携し、地域住民の活力、地域を変える力を生み出すことができるよう~という文章は、小・中学校区、行政区に図書館があればという意識があるのではないだろうか。もちろん、私の個人的な見解であるが、もしそうであるとすれば、市レベルにおいて、中央図書館と複数の分館、その分館の周囲に分室があれば、両教授が言う、まちづくりの拠点としての公共図書館の内容が理解できる。

2 分館の事例としての日野市立図書館

 

 分館について少し詳しく述べると、図書館の分館は、図書館の中枢的機能を有する本館に対し、本館の外部に別に設けられた図書館施設のことである。館内には分館固有の図書館資料が所蔵され、単独で小規模な独立した図書館としての機能を有するほか、本館や他の分館の行うサービスを取り次ぐ中継拠点となる。  分館は、公共図書館であれば地域ごと、大学図書館であればキャンパスごとというように、地理的に本館から離れた場所で、設置場所の地域住民、設置キャンパスの教員・学生を対象とするサービスを担っており、所蔵資料の閲覧・貸出やレファレンスなどを行う。  分館は相対的に小規模であるため所蔵資料は少なく、レファレンスも簡易なものに限られるが、本館と分館の間には密接なネットワークが構築されており、本館や他の分館の所蔵する図書館資料の取り寄せ、レファレンスの回付などを通じて図書館組織全体のサービスを提供する。  本館の側から見れば、分館は本館のサービス網を本館から離れた場所に広げる窓口として位置づけられる。例えば、地方公共団体、自治体が設置主体となっている図書館の場合、自治体の広い領域に対する図書館サービスを1つの本館では十分にカバーすることができないので、「地区館」と呼ばれる分館を自治体内に張りめぐらせたサービス網の構築は図書館サービスの普及に不可欠と考えられる。  また、公共図書館にとっては、分館は図書館の本館がカバーすることができない地域、地区に対するサービス拠点として重要である。特に日本の図書館界では、1960年代の日野市立図書館が、本館機能を持つ中央図書館の建設を後回しにして、地域に密着した小図書館の建設に予算を優先して投入した結果、幅広い図書館利用の掘り起こしに成功した事例はそのモデルケースとして有名である。  その日野市立図書館の斎藤隆夫氏(1987年、昭和62年12月第3代日野図書館長に就任)が、副館長時代に書かれたレポート、-「市民の図書館」の原点はいま-は、恐らく30年以上前に書かれたものであるが、今、読んでも色あせるものではない。 -健康保険制度が肉体の健康における社会保障であるように、精神や教養の面での社会保障が図書館であると言える- -市立図書館は市民の知的欲求を資料の提供という形で支えている。自由で民主的な社会に欠くことのできない機関である。市民がそれぞれ自らを高め、自由な思考と判断ができるようにならなければ、本当の民主的な社会は実現しない。市民がこのような自己形成への道を歩むための資料を提供し、判断の材料を整えるのが図書館である。-

-運営の基本方針  市内全域サービス-市内のどこに住んでいようと、同様に利用できなければ、市民の図書館ではない。そのために、図書館は一つの建物を指すのではなく、システムとして機能するサービス網を指すのである。  図書館は、「本・人・建物」で成り立つとも言われる。その中で本(資料)が最も大切である。立派な職員がいて、立派な建物があっても、資料がなくては、図書館のサービスはできない。常に新鮮で豊富な資料を揃えることが重要である。- -図書館のあゆみ  1965年開館当時、一般市民の図書館に対する関心は薄く、「学生の勉強場所」くらいの捉え方であった。このような状況下で図書館を利用し、図書館への関心を高めてもらうために採用した方法が貸出業務に徹した移動図書館のみによる出発だった。建物は後回しにして、資料を豊富に揃え、市民の身近なところで貸し出しをする。この出会いを大切にしたのである。全ての図書館サービスを一緒に始めては、全てが中途半端になるからだ。  第1段階-移動図書館による貸出のみ  第2段階-分館の設置  第3段階-中央館の設置(1973年開館)-

 現在、日野市には、中央図書館と市政図書室、そして5つの分館、移動図書館1台があり、市内どこに住んでいても図書館サービスを受けることができる全域サービスの体制を整備している。  今回(5月16日)、分館の一つである日野図書館(蔵書56,000冊)を訪問し、中央館館長の飯倉氏にお話をうかがった。その後、別の分館、多摩平図書館(蔵書122,000冊)も案内してもらった。  それぞれの図書館の取り組みに、地域の特長、利用者の特徴、目指すべき具体的な取り組み等が決められていた。なお、日野市立図書館は本館、分館、移動図書館を含めた総蔵書量は約82万冊である。人口は184,204人(平成29年10月1日現在)  今後の課題として、全域サービスを継続しつつ、それぞれの地域の特性を活かした取り組みを充実させ、地域の文化を創る拠点となることを目指している。  飯倉館長は、初代館長を務められた前川恒雄氏の実績を話された。その中で、前川氏が日野市を離れ、滋賀県立図書館長時代に、徳島県立図書館の創設にかかわりを持ったとあったので、後日、徳島県立図書館でレファレンスをしてもらった結果、昭和60年1月に図書館基本構想検討委員会が出した「徳島県立図書館基本構想報告書」の検討委員会委員の特別委員として前川恒雄氏(滋賀県立図書館長)の名前があった。その検討委員会は視察先として、東京都立中央図書館、日野市立中央図書館、滋賀県立図書館、福岡県立図書館、博多市民センター、鹿児島県立図書館を訪れている。恐らく日野市立中央図書館は、前川氏の推薦であろう。その前川恒雄氏が2006(平成18)年に出版した「新版図書館の発見」は、「図書館の発見」1973(昭和48)年の再刊であり、その第4章、「図書館は建物ではない」、1、「システムとしての図書館」の説明に、 -「図書館」は建物ではなく、市民に資料を提供するシステムである。だから、よほど小さな市町村でない限り、建物が一つあればできあがったとは言えない。システムとしての図書館で、最も重要なのは分館であり、次に移動図書館である -システムとしての図書館では、中央館、分館全体が一つの図書館として機能する。分館の数と規模について、差し当たって中学校区に一つの分館が目標であろうと思う。規模も余りにも小さい図書館は役に立たないので、最低開架図書3万冊は必要であろう。この規模の図書館が使われない程度に人口が少ない地域は移動図書館が巡回すべきだろう。  前川氏が言うように、中学校区に一つの分館というのは厳しいものがあるとしても、分館の必要性はおおいに感じるものである。

3 分館の事例としての、立川市図書館と小平市立図書館

 分館そのものの話は、2、日野市立図書館で述べたので、5月16日に訪問した立川市図書館高松分館と、5月17日に訪問した小平市立図書館の分館である仲町図書館について簡単に紹介しておこう。  まず、立川市図書館高松分館。 中央館蔵書約50万冊、分館8館、総蔵書数約90万冊、人口182,869人。中央館、分館ともに複合施設であり、中央館は直営で8つの分館のうち5館はTRCが指定管理者、残り3館は㈱ヴィアックスが指定管理者となっている。同じ施設の分館に指定管理者が2社入っているのは珍しいと思う。おさえるところは直営でおさえて、分館は民間同士で競い合わせるということだろうか。 次いで、小平市立仲町図書館。 中央館蔵書約40万冊、分館7館、分室3室、総蔵書数124万冊、人口190,954人。(平成29年4月1日時点)訪問した仲町図書館は分館の特色の最たるものを感じた。それは、学校図書館と公立図書館の連携に関して、仲町図書館がその連携推進室に位置づけられていることだ。学校図書館協力員を小学校19校、中学校8件の学校図書館へ全て派遣。学校図書館相談員を仲町図書館に2名配置、協力員のサポートである。この例からもわかるように、1分館が本館業務の一部を担う、つまり、本館、分館が一体となり、行政業務を推進していく、分館の必要性がこういったところにあらわれてくる。

4 学校図書室の地域開放、その事例と目指すべきゴールは

公立図書館の現状と諸問題 Ⅱ

-議会での質問と視察事例-

 

四国大学地方自治研究フォーラム

岡南 均

​平成30年3月31日

 「公立図書館の現状と諸問題 Ⅱ」では、平成27年12月の本会議での質問と過去3年間に視察した他都市の図書館の視察報告書をまとめた。 それとは別に、ここ数年間の公立図書館の新しいあり方として、中心市街地活性化に図書館を取り込む自治体が多いことから、まちづくりの一環として、「図書館」を位置づけようとする傾向がある。  「まちづくり」との結びつきは、これからの図書館にとって欠かせない視点であると同時に、自治体のまちづくりにとって「図書館」との結びつきは必須の条件である。なぜなら、図書館は単なる読書施設ではなく、以下のような特徴を併せ持つからだ。

・利用者の年齢、年代の幅が広い

・毎日来館する人がいるくらい常連、リピーターが多い

・無料で使えて、平日・休日昼夜を問わず開館している

・司書という専門的職員が利用相談に応じ、ボランティア活動も盛ん

・あらゆる趣味と興味と知的関心に対応可能

・カフェ、書店、体育・スポーツ施設、学習塾など民間文化施設とも親和性が高い

 

 これらの特徴を生かして、図書館は「まちづくり」だけでなく、「地方自治」、「生涯学習」、「情報社会」といったさまざまな局面へと広がりを見せており、「地域の情報拠点」に変わりつつある。(片山善博・糸賀雅児著「地方自治と図書館」より)  「図書館はそのコミュニティの構成員誰もが自由に出入りし、一定時間の滞在を許されるところである。そこに入った利用者はやろうと思えば極めて多種多様の知的活動をすることができるし、場合によっては何もしなくてもよい。新旧の資料が得られれば、最新の電子情報へのアクセスが可能になるし、各種の行事やセミナーに参加することもできる。これが地域コミュニティあるいは機能的コミュニティいずれにとっても、場所としての図書館が果たすべき役割である。別に目的がなくとも、そこにいることを許す公共施設というのは図書図書館以外に公園くらいしかない。」(根本 彰著「場所としての図書館・空間としての図書館」)  根本氏が言うところのコミュニティを、地域自治協議会に置き換え、平成29年9月議会において、分館について委員会で質問をした。その時の教育委員会の答弁も資料として、添えておく。

 

 視察事例は、私の政策サイト(視察、勉強会報告)に記載

公立図書館の現状と諸問題

-公立図書館運営における指定管理者制度-

 

四国大学地方自治研究フォーラム

岡南 均

​平成30年1月31日

はじめに

 指定管理者制度が地方自治法の一部改正で施行されたのは2003年(平成15年)9月である。これにより、それまで地方公共団体やその外部団体に限定されていた公の施設の管理・運営を、株式会社を初めとした営利企業、財団法人、NPO法人、市民グループなど法人その他の団体に包括的に代行させることができるようになった。

 利用時間の延長など、施設運営面でのサービス向上による利用者の利便性の向上や管理運営費の削減による、施設を所有する地方公共団体の負担の軽減等の反面、問題点として制度導入の真の狙いが運営費用と職員数の削減にあることから、行政改革の面だけが過剰に着目されたり、指定期間の満了後も同じ団体が管理者として継続して指定を受けられる保証はなく、指定期間が3年から5年程度と短期間なので正規職員の雇用・配置が困難になったりする等、問題点も指摘されている。

 市町村における公立図書館に関しては、図書館年鑑2017によれば、2016年(平成28年)度において、全3,203館中511館が制度導入ということになっている。導入済みの指定管理者の性格は、民間企業が365、次いで公社財団が51、NPOが40、その他13という状況で、民間企業が圧倒的に多い。

 本レポートでは、主に全国図書館大会での発表をもとに、指定管理者制度の一面に注目した。

 

 

1.全国図書館大会と図書館総合展

 

 2017年(平成29年)10月に第103回全国図書館大会、そして11月に第19回図書館総合展に参加した。

 図書館総合展は過去に数回参加しているが、全国図書館大会は、今回初めての参加である。それぞれの会を簡単に説明すると、全国図書館大会は公益社団法人日本図書館協会の主催であり、後援に文科省、国立国会図書館等、多くの団体が名を連ねている。図書館総合展は主催が図書館総合展運営委員会であり、後援に総務省、文科省、経産省、国立国会図書館等となっており、総務省、経産省が後援となっていることが、同大会の特徴の一つと言えないことはないと思う。

 二つの集まりの内容等に踏み込んでみる。 まず、全国図書館大会の主催者である公益社団法人日本図書館協会について説明しておこう。

 日本図書館協会(Japan Library Association, JLA)は、2014年(平成26年)1月に内閣総理大臣から「公益社団法人」として認定された。前身は、日本文庫協会であり、1892年(明治25年)3月に、アメリカ、イギリスに次いで、世界で3番目に設立された。現在は、著名人が会員となって、活動を支えており、個人・施設をあわせて、約7,000人の会員を擁している。 JLAの目的は、さまざまな種類の図書館(公共図書館、大学図書館等)の進歩・発展を図る事業を行うことにより、人々の読書や情報・資料の利用を支援し文化の進展及び学術の振興に寄与すること、その目的達成のために、下記のような事業を展開している。

 

(1)    図書館職員の育成及び研修・講習

(2)    図書館運営に関する相談及び支援並びに政策提言

(3)    図書館の管理、運用・サービス及び技術等に関する調査・研究及び資料収集

(4)    図書館運営ツール・選書ツールの作成及びその普及

(5)    機関紙及び研究・調査成果等の刊行

(6)    図書館の進歩を促進するためのキャンペーン及び進歩促進に貢献したものの表彰

(7)    国内外図書館団体等との連携及び協力・支援

 JLAは、その長い歴史の中で、図書館の運営を支えるさまざまなツールの開発と普及、図書館振興、情報提供などの活動を行ってきた。機関誌の「図書館雑誌」は1907年(明治40年)に創刊され、戦中・戦後の時期を除き継続発行されており、現在108巻を超える長寿雑誌である。毎年秋に全国の図書館関係者が一堂に会する「全国図書館大会」は、1906年(明治39年)に第1回が開催されて以来、2014年(平成26年)には記念すべき第100回を迎えた。  第二次世界大戦後には、図書館員の精神的な支柱といえる「図書館の自由に関する宣言」(1954年、1979年改訂)、「図書館員の倫理綱領」(1980年)を制定した。公共図書館の設置を広げる活動では、1963年に「中小都市における公共図書館の運営」、1970年に「市民の図書館」を発行し、各地域の住民のために図書館をつくり上げることの重要性を指摘し、その後の図書館の発展に大きく寄与した。  図書館に関する情報収集と提供については、「日本の図書館」(1953年創刊)、「図書館年鑑」(1982年創刊)を毎年発行し、「図書館の“今”」を統計と情報で伝えている。

 JLAは、このように長い間、図書館の発展を支える活動を展開してきた伝統のある団体である。

 次に、図書館総合展そのものの説明をしておこう。総合展のパンフレットには、次のように書かれている。

 図書館総合展は、2017年で第19回目を数える図書館関連で国内最大のイベントである。図書館運営者・関連業界とコンタクトをもつのに最大かつ最良の機会であるだけでなく、読書・学習・研究環境についての最新技術と知見が一堂に会する場でもある。昨今、図書館の機能や役割が、まちづくりにも、教育や文化全般にも寄与することを評価されているため、行政関係者、教育関係者、出版を初めとするメディア・情報関連業を巻き込むイベントに成長している。特に今年は「公共施設複合化フェア」を併催し、図書館を超えた公共施設全体の企画に携わる方にも有効な情報が提供できる企画となっている。

 図書館総合展は、ハード、ソフトの両面、ICT技術から什器まで、変わりゆく学術・教育についてのあらゆる技術やサービスを紹介する展示会となっており、地域振興、コミュニティづくり、観光等、自治体幹部、議員、企画部門の方々等が集まる、情報交換の場となっている

 

2.全国図書館大会 第1分科会公共図書館(1)

 第1分科会公共図書館(1)に参加した。テーマは「公立図書館指定管理者制度」である。この第1分科会の概略は以下のとおりである。

 『昨年、日本図書館協会は指定管理者制度について4回目の見解を発表し、一貫して図書館における指定管理者制度はなじまないと主張してきた。しかし、現在も新規導入の動きは僅かではあるが散見され、様々な問題が顕在化してきている。今回は、図書館のあり方を長期的視点から捉え、指定管理者制度導入の背景や問題点、本来の公立図書館のあるべき姿を考えていく。』

 講演者は山本昭和氏(椙山女学園大学文化情報学部教授)

 講演テーマは「指定管理者制度の弊害について」

 山本教授が述べた弊害をまとめると次のようになる。

(1)    図書館は中核的教育施設であるにもかかわらず職員配置が不安定

(2)    選書が不適切、教育活動に資する蔵書が構築できない

(3)    人件費を切り詰めることで利益を上げている

(4)    無料制の静かな危機

(5)    不必要で高額な出費による市民負担が増大

(6)    蓄積されてきた図書館ノウハウの崩壊

(7)    自治体における図書館ノウハウの喪失

 以上7点に集約されており、それぞれに自治体の事例が示されていた。

3.指定管理者の見解

 徳島市立図書館は指定管理者制度を導入しており、株式会社図書館流通センター(以下TRC)が指定管理者となっている。前項で山本教授が述べられた弊害について、TRC関西支社支社長代理渡辺 到氏に、徳島市教育委員会社会教育課西名課長を通じて、当日配られたレジュメをお渡しし、後日見解をいただいた。

その見解は次のとおりである。

 

(1)図書館は中核的教育施設である/職員配置が不安定

 現状、直営図書館の離職率は公開されていない。雇用期限が設けられている場合もある臨時職員、非常勤職員、任期付き職員を含めた離職率はかなり高いものと予想される。一方、弊社の平成28年度離職率は約16%。定年に比較的近い人材の雇用状況や、指定管理や業務委託という特殊な有期限業務であることを鑑みても、平均値以下といえるのではないだろうか。 弊社では職員の雇用安定を目的に、国の施策に先立ち平成29年度より一定期間勤務した従業員に対して無期雇用を適用。今後は5年勤務者を随時無期雇用としている。また、弊社では独自の人事・給与制度を設けており、運用している。もちろん十分給与を支払っているとは考えていない。指定管理料が増額され、自治体職員並みの給与が支払えれば、離職率は大幅に改善されることは間違いない。

(2)選書が不適切

 選書に関しては多くの場合、自治体の了承を得てから発注される。ここで指定のある「民間会社におまかせ」という指摘は事実誤認といえる。図書購入の最終決定者は自治体そのものである。 選書の内容は職員や受託会社の力量によるところが大きい。表に示された「絶歌」を例に挙げるケースは多いが、同書が図書館に必須であるかの議論はなされていない。

 

(3)人件費を切り詰めることで利益を上げる方法

 現実問題として指定管理料が定められているため、業務量とのバランスを欠いている場合は、官制ワーキングプアと指摘を受ける事例もあることは事実。ただし、一方で受託企業職員の人件費を確保するため、指定管理料を増額し仕様書に定めているケースも見受けられる。 短期的に見れば人件費を切り詰めて利益を確保することは可能である。ただし、図書館が永続的な施設であると同時に、それを受託する企業も永続的である。その企業が人件費を切り詰めて、はたして高い評価を得ることができるであろうか。

 

(4)無料制の静かな危機

 “無料制の危機”の定義が不明だが、どのような運営をするかは自治体に決定権がある。指定管理でも業務委託でも設置責任は自治体にあるため、民間化とは関係のない指摘である。 おそらくこの指摘はCCC図書館を指しているのであろう。これは一方的にCCCが押しつけたのではなく、このスタイルを求めたのは他でもない自治体自身であることは忘れてはいけない。

 

(5)不必要で高額な出費による市民負担が増大

 “高額”とは何と比較されての指摘なのかが不明である。 低コストの運営より高い水準の運営を希望される自治体は多い。しかし、指定管理料増加の背景には業務範囲の拡大が考えられ、その結果指定管理料が増額される場合が多い。さらに、昨今の人件費や社会保険費、各種経費の大幅な上昇が影響している。

 ただし実感としては、良い運営を実現した自治体は指定管理料の増額が自治体みずから図られる場合が多いことを付け加えておく。

 

(6)蓄積された図書館ノウハウの崩壊

 全国的な人口減少に比例して、全国の図書館利用は減少している。しかし、この指摘では減少しているのが35%程度であることのほうが驚きである。 また、別途指摘のあるリクエスト対応。弊社の認識としてリクエストに応じる必要はないと考える。リクエスト=自分の購入したい本であり、永続的な図書館蔵書方針と乖離していることは間違いない。

 

(7)自治体における図書館ノウハウの喪失

 寡占状態が生み出されたのは専門業者が弊社以外に存在しない現状にある。図書館運営は参入障壁が低いと考えている企業は少なくない。そのため、安易に参入する企業の失敗や、自治体が支援するNPOや財団法人による運営が破綻をきたしたケースが見受けられる。図書館運営のスキルの高い専門業者が複数存在するならばこの寡占化は緩和されるだけのことである。弊社からの視点では、弊社が選ばれた結果、寡占化が進んだだけのことである。そのことで慢心が生まれれば、弊社のシェアが激減するだけの話であることに何か問題があるのだろうか。提案力でも運営力でも群を抜いているとの指摘はいただく。 「図書館ノウハウとは何か」「かつて高水準な運営をしていたか」という点においては何ら指摘されていない。直営図書館の現状はどうなっているのか、「不都合な真実」に目を向けるべきである。

 

4.山本教授のレジュメにおける“弊害(1)”の検証

 

 山本教授は(1)において職員配置が不安定と述べており、その事例は以下のとおりである。

・茨城県M市(2016~) 館長1名・職員5名が6月で退職、人員不足、市議会で社長が謝罪   とあり、文献1として、守谷市議会会議録(平成28年7月1日総務教育常任委員会)を挙げている。  M市の事例は、2016年(平成28年)4月よりTRCが図書館の指定管理者となり、館を運営していくことが、前年(平成27年)に決定していた。しかし、直営から指定管理への移行期間中に多くの問題(おそらく直営時代の一部職員がTRCの運営方針等に対して納得しなかったのであろう)が起こり、解決のできないままTRCによる業務が始まり、2カ月程で館長が辞任、5人の退職者が出たということだ。

 そこに至るまでの間に、やめられた方が、担当課や市議会議員等にTRCの運営方針、運営状況に対する不平、不満をお話されたのであろう。そして、一部の方がそのことを重大視し、委員会でのTRC社長の参考人招致となった。  A4で18ページの委員会議事録に目を通すと、上記(人員不足、市議会で社長が謝罪)から受ける印象とは異なる様子が想像される。

 委員会議事録によると、ある議員から、「指定管理者を受けたということは、これまでの公的サービスを全て受け入れたと受けとめてもらわなければならない。」、「私は、この間の住民の声、利用者の声及びスタッフの声も聞いてきたが、これまで長く働き続けてきたスタッフがやめなければならない状況はひどい状況と捉えてよいと思う。

 本来なら市の直営から受けた企業として、そこで働く方々の条件も全て同じで、仕事の内容及び働く方の気持ちもしっかりと受けとめる必要があるのに、そこがなかったように見受けられた。次々にやめる人がふえているのは異常な事態である。こういうことも含めて、もうTRCに、私たち市民の知的財産を任せるわけにはいかないと思う。それほどまでに今皆さんが真剣に考えている。」との発言があった。

 それに対して、石井社長は、「4、5月の実数として入館者数は倍近くになっており、貸し出し冊数についても大幅にふえている。新規登録者についても同様にふえている。読書人口がふえているということだ。その他、新しいサービスもマスコミ等で評価されている。」と反論している。

 石井社長の見解に対して、同議員は、「増加数に関しては、新しい指定管理者がどんなことをするのかという関心度であり、どこの施設においても当初はそういうものである。それよりも、今まで市民が図書館でつくり上げてきた歴史というものは、それは市民がつくり上げてきた価値のあるもので、それを指定管理者には受け付けてもらえなかった。新しいものを企画したからいいというものではない。こうした、古いものをなきものとして捉えられている傾向が見られる。」と発言している。

 これに対し、石井社長は、「指定管理者制度は、民間の力、あるいは知恵をもっと出すことについて、自由にやれというのが基本方針である。」と述べている。

 その後も質問、答弁は続くが、最終的には、「そこで働く人、来館してくれる人、それから自分たちのパートナーとしてのボランティアの団体の方など、人と人との関係、人を大切にする図書館というところをしっかりと再認識し、社内できちっとした認識の統一をしてもらって取り組んでもらいたい。」との議員からの要望に対して、石井社長は、「指摘されたことは大変重要で基本的なことだと思うので、当然、先ほどの具体的な御要望とともに、実行していくことを約束したい。」と答弁している。

 

5.おわりに

 公立図書館における指定管理者制度の導入に当たって、利用者の増加等好意的な評価がある一方で、民間企業に委ねることの是非に関して論争になるケースもある。

 最近の公立図書館を取り巻く環境として、日本図書館協会が展開している⑴~⑺の事業以外に地域コミュニティとの関係やビジネス支援等の領域に対する公立図書館のあり方等が求められている。

 その観点からすると、直営よりも指定管理者に任せたほうが、裾の広がりが期待できるように思う。大切なのは、指定管理者制度を導入するに当たり、民間企業等に対して、自治体が何を求めるのかをきちんと説明することであろう。そうでなければ事例にもあったような状況に陥るのではないだろうか。  図書館総合展のトークイベントで、ファシリテーターの方からの「期間限定では図書館を運営するノウハウが自治体に残らないという危惧もある。実際にはどうなのか。」という質問に、TRCの代表取締役会長の谷一氏が、「むしろ引き受けた時点でノウハウがないケースがほとんどであり、それを見ると、公共図書館の現場はかなり疲弊していると感じる。こちら側でマニュアルをつくり、ノウハウを蓄積していくしかない。そもそもノウハウがあるところは指定管理を依頼しない。ノウハウがなくなってきているからこそ、専門家集団に任せるといったスタンスではないだろうか。」と答えている。

 谷一氏の見解について、直営の公立図書館の方はどう思うだろうか。

 

 

 

※次回の発表では、ここ数年で視察した公立図書館の事例を紹介する。

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